チベット旅行記(河口慧海)
これを読んで、まず、今まで勝手に想像していた河口慧海という人のイメージが変わりました。
これまでは、寡黙で山伏のような姿を思い浮かべていたのですが、本の中で活躍する河口慧海は、なんともお茶目で愛嬌のある人。
恐らくご本人は自分では意識していないと思うのですが独自のユーモアがあり(いわゆる天然)、それが読んでいるこちらからすると真面目な僧侶の姿と相まって思わず吹き出してしまう。
旅自体は本当に過酷で生死に係わる危険もたくさんありますが、それをその楽天的でポジティブな性格と自分への厳しさ、因果応報としか思えない助っ人の登場などで見事に乗り越えていく様は、読んでいて心地よい。
私が数年前に行ったチベット旅行は、もちろん文明の利器(青蔵鉄道や車)をふんだんに利用し、なんなく入域しましたが、それでもその高地の障害というのには少々苦しみました。
そんな地域を歩いて(時には馬に乗り)インド、ネパールを経てラサまでたどり着くなんて、どんなに大変だったかと思います。
しかし、こんな過酷な旅をしているのに、酒や肉を口にしないのはもちろんですが、昼の12時以降はいっさい食べ物を食べないなどとても厳格で、それを真なる僧侶として当然のことと思っています。
なので、旅の間に出会った酒も肉も口にし妻帯しているチベットの僧侶を見ると、河口慧海からすると非常に怠惰に思え、チベット仏教の中でもとても敬われているパドマサンヴァバに対してさえも、
肉も食えば酒も飲み、八人の妻君をもっていた人である。その僧を清浄な僧侶とし、救世主として尊崇したのである。これはおそらく悪魔の大王が、仏法を破滅するためにこの世に下り、かかる教えを説かれたものであろうと私は断定している。とバッサリ切り捨て現地の僧侶と喧嘩したりしています。
また一方、妻帯者の僧侶が暮らしているテントに泊めてもらったとき、最初は美しくて気立ての良い女性だと思っていた妻が、あるとき突然鬼のように怒り僧侶に当り散らしている姿を見て、恐れおののきながらもなんとかなだめすかした後、その夜寝床に入り、
いやもうチベットの坊さんばかりではない。堂々たる日本の坊さんでも、女房を持ったり、子供をこしらえたりしている人は、これと同じ難儀をしていることだろうと思って、ひそかにその夜は涙を流したが、実に女房を持った坊さんほど、気の毒なものはないのである。など、その正直で媚びない姿は非常に愉快で、私的にはツボにハマる面白さでした。
タイトルは「チベット旅行記」ですが、チベットに入る前にインドのダージリンやネパールにも滞在しているので、その当時の現地の様子も知ることが出来ます。
世界的にも、この旅行記は当時を知る上での貴重な文献とされており、そういった意味でも読んでみる価値は十分にあると思います。
河口慧海がラサに滞在していたときは、ダライ・ラマ13世が20代半ばのころの時代ですが、先日ご紹介した現法王の14世が書いた「ダライ・ラマ自伝」と併せて読むと、時代は少しずれますが、チベット人僧侶から見たチベットと、日本人僧侶から見たチベットとが比較できて面白いです。
【送料無料】チベット旅行記(上) [ 河口慧海 ]
【本の概要】
ただひとり、ひたすら求道の情熱に身を任せ、明治33年、日本人として最初にチベットに入国した河口慧海。その旅行記は古典的名著であり、読み物としても抜群の面白さを備えている。上巻では、明治30年6月、日本を出発し、装備も不十分なまま寄せ来る困難をしのぎながらヒマラヤ越えに挑んださまを描く。
【目次】
チベット入り決心の次第/出立まえの功徳/探検の門出および行路/語学の研究/チベット入りの道筋/奇遇/間道のせんさく/ヒマラヤ山中の旅行/山家の修行/北方雪山二季の光景〔ほか〕
【著者情報】
河口慧海(カワグチエカイ)
1866(慶応2)年1月、大阪府堺生まれ。仏教学者、探検家。23歳で上京し、井上円了の哲学館(東洋大学の前身)で、哲学・宗教を学ぶ。サンスクリット語とチベット語の仏教原典入手のため、チベット行きを決心する。1945年2月4日逝去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
(「BOOK」データベースより)
【送料無料】チベット旅行記(下) [ 河口慧海 ]
【本の概要】
ついにチベットに入った慧海は、念願の仏教大学入学を許可された。法王ダライ・ラマにも会い、医者としての名声も高まり平穏で順調な毎日を過ごしていたが、次第に外国人ではないか、という噂がたちはじめ、ラサを離れる決心をする。だが、行く手には乗り越えなければならない関所がいくつも待ちかまえていた…。
【目次】
異域の元旦/二か月間の読経/不潔な奇習/正月の嘉例/防霰奇術/はるかにラサを望む/法王宮殿の下に着く/チベット人を名乗る/セラ大学生となる/法王に召される〔ほか〕
(「BOOK」データベースより)
↓この記事がお気に召したらソーシャルで共有してくれると嬉しいです↓
(ボタンは記事の一番下)
0 件のコメント:
コメントを投稿