雪の下の炎(パルデン・ギャツォ著/桧垣嗣子 訳)
人はどこまで残虐になれるのか
著者のパルデン氏は、投獄されてから幾たびもの拷問を受けますが、拷問の辛さよりもその向こうに見える人間の持つ残虐性によりショックを受けたと書いています。
これを読んで、1971年にアメリカの心理学者ジンバルドーによって行われた「スタンフォード監獄実験」が頭によぎりました。
この実験は、普通の一般市民21人を集めその半数を看守役、あとの半数を囚人役に分け、それぞれの役にあった肩書きや権利を与えるとどのように行動するかを見るために行われました。
より役になりきってもらうために、足かせや目隠しをしたりなど、かなりリアルな状況を作ったそうです。
時間が経つにつれ、看守役は自ら進んで懲罰を与えるようになり、やがて禁止されていた暴力もふるうようになりました。
囚人役の何人かは耐えられず、実験の中止を求めましたが受け入れられず、精神に異常をきたすものが現れました。
しかし、ジンバルドーは自らもこの状況にのまれてしまい、中止するどころかさらに続行しようとしました。
この状況をみて、囚人役の状態を診ていた牧師が危険と判断し、各方面に働きかけ実験は中止。
これにより、2週間の予定がたったの6日間で終了となったのです。
この実験からわかったことは、人間はある限られた空間で権力を与えられると、やがて理性がふっとび暴走してしまうということ。
そしてこの実験では、そのふっとぶまでたったの数日しかかからなかったのです。
↓この監獄実験を元に作られた映画
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この本では、まさにこのような状況が何十年と続けられており、いったんふっとんだ後は、状況が変わらない限りずっと続くのだということがわかります。
ほんの些細なことを歪曲して「つるし上げ」の言いがかりを作り、執拗に執拗に虐待していく様は、怒りを通り越して気持ち悪くなるほど。
さらに、これだけのことをしておきながら一貫して「自分たちは悪くない」と言い張る精神は、ジンバルドーも陥った「悪いことを悪いと感じない」感覚になっているのでしょう。
そんないつ果てるともなく繰り返される暴力と死の恐怖にさらされる状況の中、30年以上も耐え抜いた著者の精神力は本当にすごいとしか言いようがありません。
このような途方もない年月をどのように乗り越えてきたのか、その心の強さと物事の考え方などは、生きていくうえでの参考にもなると思います。
なんだか、ここで私があれこれ言ってもまったくそのすごさを伝えることができないので、ぜひ読んでみてください。
これは過去のことではなく、今もチベットやウイグルで起こっている現状です。
ダライラマ14世が書いた「ダライ・ラマ自伝」と併せて読むと、中国にとらわれているチベット人を心配するダライラマと、監獄の中からダライラマの無事を祈るチベット人の両方の面から当時の状況を知ることがでるのでおすすめです。
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【本の概要】
中国が31年間投獄したチベット僧の壮絶な記録。
【目次】
虹の下で/俗世との絆を断って/蜂起/逮捕/脱走/青空の下に逃げ場なし/織物名人/文化大革命/労働による改造/「舵取り」の死/廃墟の中で/新世代の分離主義者/敵と対峙して
【著者情報】
パルデン・ギャツォ(Palden Gyatso)(パルデンギャツォ)
1933年生まれ。1992年に中国占領下のチベットから脱出した後、インド北部ダラムサラに住み、アムネスティ・インターナショナルや各種チベット支持団体の招きで欧米各国を訪問している。1995年には、ジュネーヴの国連人権委員会で証言をおこなった(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
(「BOOK」データベースより)
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