次は、布好き、民族衣装好き必見!ブータンの織り物のコーナーです。
民族衣装の流れ
1989年、公共の場で民族衣装を着ることが勅令で定められた。国としてのアイデンティティを守り、各地域の染織制作を支援するためであった。職場や学校では、男性はゴ、女性はキラを着用し、日常的に民族衣装を見ることができる。
ブータンの織り手たちは、ヤクの毛や野蚕、イラクサをはじめ、多様な気候風土から得られる繊維や染料を積極的に活用してきた。時代の変化に伴って、新鮮で現代的な色彩が取り入れられ、文様にも新たに展開があった。それでも、複雑な織り技法から生まれる色彩豊かで精緻なデザインには、世界のどこにも存在しないユニークさがある。民族衣装もまた、しなやかに変化しながらも本質は変わらない、現代ブータンに生き続ける文化なのである。(案内板より)
3種類の機
ブータンでは3種類の機を使い、手織りで民族衣装などの布が織られている。
【腰機】
腰にベルトをかけて経糸を保持しながら緯糸を通して織るタイプの機。ブータンでは膝から腿にかけての平らな部分をパン、機をタと言い、この機をパンタと呼ぶ。3枚の布を織り、横方向の接ぎ合わせて1着のキラとなる。ブータン東部で盛んに織られ、西部でも東部出身の女性たちによって織られている。
【高機】
1930年代に王室の女性によって、チベットから導入されたとされる高機ティタ。ウールやヤクの毛を織るのに使用され、ティタで織る織物はパンタよりも幅が狭い。そのため、ティタで織った布は10~10数枚を接ぎ合わせて1着となる。ブータン中央部ブムタンはウールの産地として有名。
【カード織り】
木や革、紙などのカードに穴を開け、経糸を通し、カードを回転させ、緯糸を通して織る。帯や紐に適した織物を織ることができる。ブータンでは本来は動物の革を使っていたが、都市部ではレントゲン用フィルムが利用されるようになった。4つ穴である。(案内板より)
文様を織り出す技法
【片面縫取織】
キラの平織部分に施される文様の多くは、片面縫取織である。文様部分の経糸をすくい、色糸を入れて文様を表す技法。経糸の蜜な平織りに色糸があるため、裏面に色糸は現れない。色糸でサテンステッチのように面を埋める技法をサンマ、チェーンステッチやクロスステッチのように線を表現する技法をティマという。不規則に経糸をすくって表現する生命の樹文(シンロ)などは特に難しいとされる。
【両面縫取織】
片面縫取織と異なり、裏面に色糸が現れる縫取織。肩掛け(ラチュ)や儀式用布(チャスィ・パンケプ)に見られる。
【経浮織】
地と文様になる経糸をあらかじめ準備して機に仕掛けて、必要な経糸を拾い出して文様をお表す技法。経浮織の布は男性の民族衣装である「ゴ」や女性の民族衣装「キラ」に多く用いられ、配色によってアイカプル(赤地に白と黄)やルンセルマ(黄地に赤と緑)のように呼称される。(案内板より)
素材
ヒマラヤ南斜面に位置するブータンは、高山から亜熱帯まで幅広い自然環境を背景に、バラエティに富んだ動植物が存在している。ブータンでは様々な素材が見られるが、特徴的な素材を紹介しよう。
【野蚕(ブラ)】
ブータンでブラと呼ぶ野蚕は人々にとっては憧れの素材の一つである。宗教上の理由により、殺生を嫌うブータンでは、蚕が食い破った繭を紡いで糸にする。ブラで織られた民族衣装のキラやゴには独特の味がある。
【ヤク】
固い外毛と柔らかで保温性の高い下毛が得られ、暖かく撥水性のある毛織物は寒冷地での使用に適している。尻尾の毛は、ラマ僧の払子にもなる。
【イラクサ】
ブータン人は19世紀まで、多くの人がイラクサの布の衣服を着ていた。棘のあるイラクサから繊維を取り、衣服や袋、風呂敷、弓の弦などが作られてきた。(案内板より)
染料
【リュウキュウアイ】
日本の藍はタデアイであるが、ブータンの藍は沖縄と同じリュウキュウアイが使われている。
【ラック】
ラックカイガラムシを養殖し、その分泌物から得られた染料で深い赤を染める。その生産は激減している。
【茜】
通常、茜は根を染材とするが、ブータンでは蔓も使う。黄味のある赤色を染める。
【ウコン】
黄色を染める代表的な染料の一つ。インドのカレーに入っているターメリックといえば、日本人にも馴染みがあるかもしれない。(案内板より)
女性用衣装「キラ」
今回出品されているキラはフル・キラと呼ばれる伝統的なスタイルであるが、現代では巻きスカート状のハーフ・キラも普及している。ハーフ・キラは上半身を覆う布がないため、上着のテゴは必須。襟をブローチやピンで押さえる。(案内板より)
黒い地に色鮮やかな文様が織りこまれ、ブータンの色彩がきらめいて見える。端の方に見られる生命の樹文(シンロ)は難度の高い文様のひとつ。(案内板より)
ルンセルマ。このキラの文様部分は野蚕(ブラ)が使用されている。ブータンのブラっは、数ある野蚕の中でもエリ蚕という種類である。ブータンでは宗教的に殺生を嫌うため、サナギが羽化した後の繭を紡いで紬糸を取る。現在では、ブラは貴重な存在である。(案内板より)
女性用衣装「ホタ・キラ」
ウールを多色の緯縞に織り、栗色と青色で十字文を染め、12本の布を縫い合わせて一枚のキラとしている。多色の縞に十字文の組み合わせは、ブータン北側に接するチベット由来のデザイン。キラの他、上着など衣服の一部にも使用される。(案内板より)
経浮織の中で、赤地に黄色で模様を織り出した布をメンチマタと呼ぶ。経浮織のない平織部に片面縫取織で卍文や生命の樹文などを表す。ブータンの織物の工程中、経糸を準備する整経は必ず2本単位で行われる。本作は、経浮織部分の経糸の本数から11脚(つまり経糸22本)と呼ばれる、細い糸を使用した最上級の布。(案内板より)
ウールに絹糸で文様を織りこみ、9本の布を縫い合わせて仕立てたキラ。菱型あるいは三角形の花模様がさまざまな色彩で散りばめられたデザインは、ペサルと呼ばれる新しい意匠。ブータンの織り手はインスピレーションを得て、新しい文様を続々と創りだしてえいる。(案内板より)
全面に片面縫取織で花模様を表した、お花畑のようなキラ。片面縫取織は、刺繍でいうサテンステッチのように面で埋めるサンマと、チェーンステッチのように見える線を表現するティマが主な技法。ブータンの女性たちは、織ることに手間と時間を惜しまない。織りは、一日数センチという気の遠くなるような作業である。(案内板より)
このキラは高機で織られ、ウールに絹で文様を表している。布幅が狭いため、10本の布を縫い合わせて一枚に仕立てる。1930年代、高機はチベットから取り入れられたとされる。一般的にウールはブムタンなどブータン東部で織られる。(案内板より)
女性用肩掛け「ラチュ」
ブータンの女性衣装の正装に欠かせないのは、左肩に掛けるラチュ。寺院やゾン(城塞)などに入る時、高位の人物や高層に会う時、儀式や式典に参加する時などには、男性はカムニ、女性はラチュが必須である。宝相華に鳳凰が刺繍されている。王族の女性は領巾のようんいラチュを両肩にかけて左右に垂らすこともある。(案内板より)
女性用上着「テゴ」
男性用衣装「ゴ」
ブータンの男性用民族衣装はゴ。くるぶし丈程もある大きなゴを羽織り、腰にたっぷりのおはしょりを作り、後ろ側に丁寧に箱ヒダを取り、帯をきつく締めて着用する。下に着た白いシャツの袖を折り返して完成する。
ゴは、身分によって着方が定められていて、一般人は膝、王は膝下の丈に着る。白いシャツの袖の折り返しも、高位の者はより長く折り返す。裾線や脇線が真っ直ぐ揃っているか、前後ともにシワがないか等、ブータン男性のおしゃれチェックに隙はない。(案内板より)
ラヤ族女性用衣装
チベットに隣接するブータン北部のラヤ族の女性用民族衣装である。竹を編んだ帽子ヤナ、上着、下衣、エプロンにネックレス、そして背守りで構成される。(案内板より)
マフラー「ヤタ」
ヤクやウールを素材とし、寒冷持にマフラーとして使用する。高機の幅に織られた布に、ピンク、青、赤、オレンジ、緑の色彩による様々なモチーフが片面縫取織で散りばめられている。(案内板より)
バッグ「ペチュ」
近代化以前のブータンでは、このような袋に食品、荷物など旅の必需品を入れ、持ち運んだ。かつてはイラクサ織りの布で作られた袋や風呂敷が日常的に使用されていた。(案内板より)
ブータンの紹介記事
→標高3000mの断崖絶壁の寺!ブータン「タクツァン僧院」はチベット仏教の聖地
→映画『リトルブッダ』のロケ地!おとぎの国ブータンの都パロの名所を巡る
→ブータン旅行記:第五代国王の戴冠式見学と雷龍昇る秘境
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